あなたは今、画面の前で固まっている。
AIに添削を頼んだ文章が返ってきた。誤字は直っている。論理も通っている。文法も完璧だ。でも、なんだかこれ、自分が書いた文章じゃない気がする。
「あれ、これ俺が書いたやつだっけ?」
そう思った瞬間、あなたの中で何かが冷めていく。せっかく3時間かけて書いた文章が、まるで他人の文章のように見える。温度が感じられない。自分の声が聞こえない。
もしかして、AIに頼むのって、やっぱりダメなのか?
違う。
AIがあなたの個性を消したんじゃない。あなたが、AIに「個性を消してくれ」と頼んだんだ。
AI添削の9割が失敗する本当の理由
ここで残酷な真実を突きつける。
「AIに文章を添削させると個性が消える」という不満の正体は、AIの性能の問題ではなく、あなたの依頼の仕方の問題だ。
想像してほしい。あなたが人間の編集者に「この文章、なんかいい感じにして」と頼んだとする。編集者は困惑する。「いい感じ」って何だ? 論文風か? ビジネス文書風か? エッセイ風か?
編集者は仕方なく、自分の中で最も無難な「正解」を選ぶ。それが「整った、ビジネスライクな文章」だ。
AIも同じだ。
「添削して」という曖昧な指示に対し、AIは学習データの中で最も一般的だった「整った文章」に収束させる。それが、あなたの個性を削ぎ落とした「どこにでもある文章」になる理由だ。
あなたを苦しめている「正しい日本語=良い文章」という呪い
もう1つ、あなたの中に巣食っている「敵」がいる。
それは、国語教師的な減点法思考だ。
「誤字脱字はダメ」「論理が飛んでいてはダメ」「語尾は統一すべき」「正しい日本語を使うべき」——こうした「べき論」が、あなたの文章を窒息させている。
でも考えてほしい。
あなたが好きなブロガーや作家の文章を思い浮かべてほしい。彼らの文章は、文法的に完璧だっただろうか? 論理は一切破綻していなかっただろうか?
違うはずだ。
彼らの文章には、誤字もあったかもしれない。論理が飛躍していたかもしれない。でも、あなたはその「不完全さ」に惹かれた。なぜなら、そこに書き手の体温があったからだ。
国語教師は減点法で文章を評価する。でも、読者は加点法で文章を評価する。
マイナスをゼロにする添削ではなく、プラスを最大化する添削が必要なんだ。
「添削の制約条件」を明文化する——これだけで8割の問題が解決する
ここからが本題だ。
あなたがAIに添削を頼むとき、こう言っていないか?
「この文章、添削してください」
これは、編集者に「よろしく」とだけ言って原稿を渡すようなものだ。相手は困る。何をどうすればいいのか、わからないからだ。
解決策は驚くほどシンプルだ。
「添削の制約条件」を明文化すること。
具体的には、AIにこう伝える:
以下の文章を添削してください。
【制約条件】
- 文体: です・ます調を維持
- 保護対象: 「〜だったりする」「要するに」などの口語表現
- 修正対象: 誤字脱字、助詞の誤用、主語述語の不一致のみ
- 禁止事項: 比喩の言い換え、文の分割・統合、接続詞の変更
【元の文章】
(ここに文章を貼る)
これだけだ。
この指示を出すだけで、AIはあなたの「らしさ」を残したまま、誤字脱字や論理矛盾だけを修正してくれる。
なぜこれが効くのか?
理由は単純だ。
AIは「何を守るべきか」を知らない。だから、あなたが明示的に教えてあげる必要がある。
人間の編集者に頼むときも同じだろう?
「この比喩は気に入ってるので、残してください」「この文末表現は、私の癖なので変えないでください」
こう伝えるはずだ。AIにも同じように伝えればいい。
あなたの文章の「らしさ」を特定する3ステップ
ここで具体的な行動プランを示す。
Step 0: 今すぐスマホでできること
あなたの過去の記事やメール、SNS投稿を3〜5本読み返してほしい。
そして、自分が繰り返し使っている表現をスクリーンショットで保存する。
例えば:
- 「〜だったりする」
- 「要するに」
- 「ぶっちゃけ」
- 「〜なんですよね」
これが、あなたの「保護すべき口癖リスト」だ。
Step 1: 添削プロンプトのテンプレート化(1週間以内)
上記で特定した「口癖リスト」を使い、以下のテンプレートを作成する:
以下の文章を添削してください。
【制約条件】
- 文体: [あなたの文体]を維持
- 保護対象: [あなたの口癖リスト]
- 修正対象: 誤字脱字、助詞の誤用、主語述語の不一致のみ
- 禁止事項: 比喩の言い換え、文の分割・統合、接続詞の変更
【元の文章】
(ここに文章を貼る)
このテンプレートをスマホのメモアプリやNotionに保存しておく。次回から、コピペするだけで使える。
Step 2: 添削後のセルフチェック習慣(1ヶ月以内に定着)
AIの添削結果を盲信しない。
以下を必ず確認する:
- ✅ 自分の「癖」が残っているか?(なくなっていたら手動で戻す)
- ✅ 説明がやたら丁寧になっていないか?(読み手を子ども扱いしていないか)
- ✅ 比喩が無難な表現に変わっていないか?
特に重要なのは、音読だ。
添削後の文章を声に出して読んでみる。もし「自分の呼吸」で読めないなら、それは「他人の文章」だ。
Q&A: 「でも…」という不安への徹底回答
Q1: 「でも、誤字脱字だけ直すって、それで本当に文章が良くなるの?」
A: あなたが思っている以上に、誤字脱字は読み手の集中を削ぐ。
ただし、「良い文章」の定義を間違えるな。文法的に完璧な文章が「良い文章」なのではない。読み手の心を動かす文章が「良い文章」だ。
誤字脱字を直すのは、読み手がつまずかないための「最低限の舗装」に過ぎない。その上で、あなたの個性という「景色」を見せるんだ。
Q2: 「AIに頼むと、どうしてもビジネスっぽくなる。もっとカジュアルな文体を維持する方法は?」
A: 制約条件に「カジュアルな文体」と書くだけでは不十分だ。
具体的に、こう書け:
- 保護対象: 「マジで」「ヤバい」「〜じゃん」などの口語表現
- 禁止事項: 「〜である」「〜だ」への変換
抽象的な指示(「カジュアルに」)ではなく、具体的な表現の例を示すこと。これが鍵だ。
Q3: 「制約条件を細かく書くの、めんどくさくない?」
A: 最初の1回だけだ。
テンプレート化してしまえば、次回からはコピペで済む。
それに、「めんどくさい」という理由で個性を失うのと、3分の手間をかけて個性を守るのと、どちらが本当にめんどくさいか?
あなたはもう、「AIに添削させると個性が消える」という愚痴を二度と言わなくて済むんだぞ。
まとめ: AIは敵じゃない。使い方次第で、最高のパートナーになる
ここまで読んだあなたに、最後に伝えたいことがある。
AIは、あなたの個性を奪う敵ではない。
むしろ、あなたの個性を守りながら、誤字脱字や論理矛盾を修正してくれる、最高の編集アシスタントだ。
大事なのは、あなたが何を守りたいかを、AIに教えてあげること。
「添削して」ではなく、「この条件下で添削して」と伝えること。
それだけで、あなたの文章は「正しさ」と「らしさ」を両立できる。
今すぐ、あなたの過去の記事を1本読み返してほしい。
そして、自分が繰り返し使っている表現を3つ書き出してほしい。
それが、あなたの「声」だ。
その声を守れるのは、AIじゃない。あなた自身だ。
コメント