なぜSNSの「簡単副業」は99%失敗するのか?あなたが買わされている「ツルハシ」の正体

あなたは今、ツルハシを買おうとしている

スマホに届いた一通のDM。

「コピペだけで月30万円稼げる方法、知りたくないですか?」

削除しようとした指が、ほんの一瞬だけ止まる。その一瞬に、あなたの脳内では小さな物語が始まっている。会社を辞めて自由になる自分。通勤電車から解放される朝。上司の顔を見ずに済む日々。

その一瞬で、あなたはもう半分「買って」いる。

これは詐欺の話ではない。もっと巧妙で、もっと合法的で、そしてもっと普遍的な、人間の欲望を燃料にしたビジネスエコシステムの話だ。

1849年、カリフォルニアで誰が本当に儲けたのか

歴史の教科書は嘘をつかないが、大事なことは省略する。

ゴールドラッシュの時代、何万人もの男たちがカリフォルニアに殺到した。金を掘り当てる夢を抱いて。つるはしを手に、川辺で砂を篩にかけ続けた。ほとんどの人間は何も見つけられず、借金と疲労だけを抱えて帰った。

では、誰が儲けたのか?

ジーンズを売ったリーバイ・シュトラウス。
シャベルを売った金物屋。
宿と食事を提供した商人たち。

彼らは金鉱など一度も掘らなかった。掘る必要がなかった。なぜなら、彼らが掘っていたのは「金鉱を掘る人々の財布」だったから。

この構造は、170年後の今日も、形を変えて完璧に機能している。

SNSは現代の金鉱、そしてあなたは何者なのか

「AI使うだけで月50万」
「コピペで年収1000万」
「何もしないで権利収入」

これらの投稿を見たとき、あなたの中で2つの声が戦っている。

理性の声: 「怪しい。そんなうまい話があるわけない」
欲望の声: 「でも、もし本当だったら? 自分だけが乗り遅れたら?」

このせめぎ合いの瞬間こそが、現代版ツルハシビジネスの収穫期だ。

投稿者たちは金鉱を掘っていない。彼らが掘っているのは、あなたの「もし本当だったら?」という可能性への執着だ。

年収5000万円の正体

ここで冷徹な算数をしよう。

フォロワー10万人のアカウントがある。「誰でも稼げる」系の発信をしている。彼らが月50万円の高額コンサルを売るとする。

SNSからのコンバージョン率は、業界最高レベルでも1〜3%。つまり、10万人中1000〜3000人が興味を持つ。そのうち実際に買うのは10〜30人。

月50万円 × 20人 = 月1000万円 = 年間1億2000万円

この数字のマジックに気づいただろうか?

彼らが売っているのは「コピペで稼ぐ方法」ではない。売っているのは「コピペで稼ぎたい人に、コンサルを売る方法」なのだ。

つまり、彼らの本当のビジネスモデルは:
「楽して稼ぎたい人々の欲望」を集めて、「その欲望を満たす方法があると信じさせる」こと

これは詐欺ではない。彼らは確かに稼いでいる。ただし、彼らが稼いでいるのは「教えている方法」によってではなく、「教えること自体」によってだ。

教えている時点で、その方法はもう死んでいる

プロ野球選手が現役を引退すると、解説者になる。
一流シェフが店を畳むと、料理教室を開く。
トレーダーが市場から退くと、投資セミナーの講師になる。

これらに共通するパターンが見えるだろうか?

「教える側」に回るとき、人はプレイヤーであることをやめている。

もし本当に「コピペだけで月50万円」稼げる方法が今現在存在するなら、その方法の発見者は何をするだろうか?

A) その方法を1万人に教えて競争相手を増やす
B) 誰にも言わず、ひっそりと稼ぎ続ける

答えは自明だ。

情報の賞味期限という残酷な真実

マーケットには「裁定機会」という概念がある。市場の歪みを利用して、ほぼリスクなく利益を得られるチャンス。

しかし、裁定機会には致命的な特徴がある:知られた瞬間に消滅する

なぜなら、その情報を使う人が増えれば増えるほど、市場の歪みが解消されるから。100人が同じ抜け道を使えば、そこは抜け道ではなくなる。

「誰でも稼げる方法」を1万人に教えた瞬間、その方法は「誰も稼げない方法」に変わる。

にもかかわらず、教材は売れ続ける。なぜか?

買う側が、この構造を理解するのは「買った後」だから。

あなたが本当に買っているもの

情報商材を買う人は、PDFやセミナーチケットを買っているつもりでいる。

違う。

あなたが買っているのは、「現状を変えずに未来を変える」という矛盾した欲望の一時的な満足だ。

購入ボタンを押した瞬間、脳内では祝祭が始まる。「これで人生が変わる」という陶酔。その陶酔こそが、実は商品の本体だ。

実際にそのPDFを開くのは3日後。実践を始めるのは1週間後。挫折するのは2週間後。そして3週間後には、また別の「誰でも稼げる」投稿を見て、同じ陶酔を求めている。

これは依存症の構造と同じだ。

アルコール依存症の人が求めているのは酒ではなく、「酒を飲めば解決する」という一時的な希望。実際に酔いが覚めれば問題は何も解決していないが、その瞬間だけは楽になれる。

「稼げる系」情報商材は、合法的に売られている希望という名の麻薬だ。

沈黙している人々の声を聞け

私の知人に、年商3億円の通販会社を経営している男がいる。

彼はSNSをやらない。セミナーもしない。noteも書かない。コンサルも受け付けない。

なぜか? 彼はこう言った。

「教えてる時間があったら、次の商品開発するよ。それに、俺が稼げてる理由の9割は『偶然と運とタイミング』だから、再現性なんてないしね」

これが、本物の成功者の声だ。

本当に稼いでいる人は、その方法を言語化するのが難しい。なぜなら、彼らの成功は「システム」ではなく「無数の微細な判断の積み重ね」だから。

そして何より、稼ぎ続けるためには集中力が必要で、他人に教えている余裕などない

逆に、「誰でもできる」「再現性100%」と断言できる人は、その方法がすでに形式化され、汎用化され、そして陳腐化していることを自白している。

「教えたがる人」の経済的動機

ここで、もう一度冷徹な算数をしよう。

パターンA: 物販ビジネスで月50万円稼ぐ
→ 在庫管理、発送作業、顧客対応、トラブル処理…日々の労働が必要

パターンB: 「物販ビジネスで月50万円稼ぐ方法」を10万円で10人に教える
→ 一度作った教材を売るだけ。月100万円。労働はほぼゼロ。

どちらが楽に稼げるか?

答えは明白だ。

つまり、「教える側」に回ることこそが、実は唯一合法的に「何もしないで稼ぐ」方法なのだ。

このパラドックスの美しさに気づいてほしい。

「コピペだけで稼げる」と言っている人だけが、実際にコピペだけで稼いでいる。なぜなら、彼らは一度作った教材を無限にコピペして売っているから。

「今だけ」「限定」「残り3席」という言語的暴力

希少性と緊急性。この2つは、人間の理性を一時的に麻痺させる魔法の言葉だ。

「今だけ50%オフ」
「残り3席」
「明日には値上げします」

これらの言葉を見た瞬間、あなたの脳は「考える」モードから「反応する」モードに切り替わる。

しかし、冷静に観察してほしい。

その「残り3席」は、来週になっても残り3席のままではないか?
その「今日だけ」の割引は、毎週行われていないか?

これは嘘ではない。ギリギリ嘘ではない。なぜなら、毎回本当に「今日だけ」なのだ。明日は明日の「今日だけ」が始まる。

承認欲求という第二の燃料

「稼ぐ系」ビジネスには、もう一つの巧妙な仕掛けがある。

それは、買った人を「教える側」に変える仕組みだ。

「アフィリエイトで紹介料50%!」
「あなたも講師になれる認定コース!」

これは天才的だ。

なぜなら、情報商材を買って失敗した人(実は大多数)に、もう一つの逃げ道を用意しているから。

「この方法で稼げなかったけど、この方法を人に教えることで稼げる」

こうして、被害者は加害者に変わる。いや、「被害者」「加害者」という言葉すら適切ではない。なぜなら、誰も本当には傷ついていないから。傷ついたのは財布だけで、希望という名の麻薬を得たのだから。

これは完璧な循環システムだ。ネズミ講との違いは、違法ではないこと。そして、誰も訴えないこと。

では、あなたは何もしてはいけないのか

ここまで読んで、あなたは思うかもしれない。

「じゃあ、何も信じるな、何も学ぶな、ってこと?」

違う。

問題は「学ぶこと」ではなく、「思考を外注すること」だ。

良質な情報は存在する。本当に価値ある教材もある。ただし、それを見分けるための基準を持っていなければ、あなたは永遠に砂金を探して川辺を彷徨う金鉱掘りのままだ。

本物を見分ける5つの質問

あなたが何か「稼げる系」の情報に触れたとき、この5つを自問せよ。

1. この人の収益源は「実践」か「教育」か?
実際にそのビジネスで稼いでいるのか、それとも「教えること」で稼いでいるのか。後者なら、メタ構造に乗っているだけだ。

2. この情報が広まれば広まるほど、価値は下がるか?
多くの人が知ることで無価値になる情報なら、それを公開している時点で矛盾している。

3. 「誰でも」「簡単に」「すぐに」が揃っているか?
この3つが同時に存在する場合、それは希望を売る商品であって、実用的なノウハウではない。

4. 失敗した人の声を公開しているか?
成功事例だけで失敗事例がゼロなら、それはデータではなくプロパガンダだ。

5. この人に、私から金を取る以外の動機はあるか?
純粋な知識共有、コミュニティへの貢献、業界の発展…そういった副次的動機が見えるか?見えないなら、あなたは「商品」だ。

本当の自由は、ゲームに参加しないことから始まる

ここで、一番難しい真実を語ろう。

「楽して稼ぐ」は、構造的に不可能だ。

なぜなら、資本主義経済において「価値の創造なき報酬」は存在しないから。

誰かが労せず得るとき、必ずどこかで誰かが労して失っている。宝くじの当選者がいるのは、99.9%の人が外れくじを引いているから。

しかし、これは絶望ではない。

むしろ、この真実を受け入れることが自由への第一歩だ。

なぜなら、「楽して稼ぐ方法」を探すことをやめた瞬間、あなたは本当に重要な問いに向き合えるから。

「私は、どんな価値を創造できるのか?」
「私は、誰のどんな問題を解決できるのか?」
「私にしかできないことは何か?」

これらの問いには、コピペで答えは出ない。AIにも答えられない。あなた自身が、試行錯誤と失敗と小さな成功を積み重ねて、見つけるしかない。

失敗を「投資」だと勘違いするな

もう一つ、重要なことを言っておく。

「失敗は成功の母」という言葉は半分嘘だ。

ただの失敗は、ただの失敗でしかない。

失敗から学べるのは、その失敗を観察し、分析し、次の行動を変える人だけだ。

情報商材を買って実践しない。それは失敗ですらない。それは「希望という麻薬を買った」だけだ。

実践して失敗する。これが本当の投資だ。なぜなら、その失敗から学べるから。

そして、10回失敗して1回成功する。その1回の成功体験は、どんな高額教材より価値がある。なぜなら、それはあなたの文脈で、あなたのリソースで、あなたのタイミングで起きた再現不可能な奇跡だから。

その奇跡を、あなたは他人に売ることはできない。なぜなら、他人はあなたではないから。

しかし、その奇跡を積み重ねることはできる。そして、気づいたときには、あなたは「稼ぐ系」情報など必要としない人間になっている。

砂漠から出る方法は、地図を捨てることだ

最後に、冒頭のメタファーに戻ろう。

砂漠で喉が渇いている。商人が地図を売っている。その地図を買うべきか?

答えは、「地図を買わずに歩き出せ」だ。

正確には、地図は参考にしてもいい。しかし、地図に従うな。なぜなら、その地図は「地図を売るため」に描かれているから。

あなた自身の足で歩き、あなた自身の目で見て、あなた自身の判断で方向を決めろ。

道を間違えたら引き返せばいい。喉が渇いたら日陰で休めばいい。倒れそうになったら、本当に助けてくれる人は地図など売らずに水を分けてくれる。

そして、もしあなたがオアシスにたどり着いたら。

砂漠には戻るな。

静かに水を飲め。そして、必要なら、地図など持たずに歩いてきた迷子を、ただ導いてやれ。

最後に – 現代のリーバイ・シュトラウスは誰か

小ネタで終わろう。

1849年のゴールドラッシュで最も儲けたのは、ジーンズを売ったリーバイ・シュトラウスだった。

2025年の「稼ぐ系」ゴールドラッシュで最も儲けているのは誰か?

  • LP(ランディングページ)作成ツールの会社
  • メルマガ配信システムの会社
  • 決済代行サービスの会社
  • SNS広告を運用する広告代理店

彼らは「稼ぐ方法」など一切教えない。ただ、「稼ぎたい人が使うツール」を、黙って提供している。

つまり、本当に賢い人は、ゲームのプレイヤーではなく、ゲームのインフラを作る側に回っている

あなたもプレイヤーにならなくていい。インフラ側に回れとも言わない。

ただ、ゲームに参加しない自由だけは、死守しろ。

それが、この記事で私が本当に伝えたかったことだ。


P.S.

この記事自体が、ある種の「情報商材」だと思った人。

正解だ。

私もまた、あなたの時間を使って、この文章を読ませた。

違いは、私が対価を求めていないこと。そして、あなたに「買え」とは言わずに「考えろ」と言っていることだ。

もしこの記事が価値があると思ったなら、誰かに教えてもいい。しかし、「この記事を読めば稼げる」などとは絶対に言うな。

この記事の価値は、読んだ人が稼げるようになることではなく、読んだ人が騙されなくなることだから。

それが、私がこの長文を書いた唯一の理由だ。じゃあ、次は逆の視点での記事を読んでみてほしい。私が「(中身のない)高額情報商材やコンサルの販売者だったら」

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