金鉱脈の上で、わざわざ金を探しに行くバカな冒険者たち
ある日、私は友人から相談を受けた。
「新しいビジネスを始めたいんだ。でも、自分には何のスキルもない。プログラミングもできないし、デザインもできない。英語も話せない。今からYouTubeを始めても遅いし、TikTokなんて若者の世界だろ?俺、もう35歳だぞ。何もできないんだよ」
彼は本気で悩んでいた。目の前のコーヒーは冷め切っていた。
私は聞いた。「じゃあ、君は今まで何をしてきたの?」
「ただのサラリーマンだよ。営業を10年やってきただけ」
「営業か。すごいじゃん」
「何がすごいんだよ。営業なんて誰でもできる」
ここだ。ここに、すべての問題が凝縮されている。
彼は気付いていない。自分が10年間、毎日毎日磨き続けてきた「営業スキル」という名の、ピカピカに光る金塊を持っていることに。そして、その金塊を「ただの石ころ」だと思い込んで、わざわざ遠くの山に金を探しに行こうとしているのだ。
馬鹿げている。
でも、あなたも同じことをしていないか?
「100メートル10秒」の罠:新しいことへの挑戦という名の自殺行為
想像してほしい。
あなたの前に、こんな契約書が置かれている。
「3年以内に100メートルを10秒以内で走れるようになったら、賞金1000万円を毎年差し上げます。さらにオリンピック代表に選ばれ、スポンサーがつき、引退後もコーチとして一生雇用を保証します」
どうする?サインする?
「よっしゃー!俺も今日から特訓開始だ!」って思った人は、今すぐこの記事を100回読み直してほしい。
あなたは、100メートル10秒を舐めすぎている。
これまで陸上競技の経験がない。トレーニングもしてこなかった。そんな状態で、世界のトップアスリートと同じ土俵に立とうとしているのだ。成功する確率は?限りなくゼロに近い。
でも、もっと大事なことがある。
あなたは本当に短距離走がやりたいのか?
違うだろう。あなたが欲しいのは「金」であり「名声」であり「安定」だ。100メートルを走ることそのものに、1ミリも興味がないはずだ。
だったら、なぜわざわざ短距離走で勝負する?
あなたが最も得意な分野で勝負すればいいじゃないか。そっちの方が圧倒的に勝率が高いのに。
「新しいビジネスを始めたい」という病:現代人が陥る最大の罠
ここで、さっきの友人の話に戻る。
彼が言った「新しいビジネスを始めたい」という言葉。これは、まさに「短距離選手になって賞金1000万円を稼ぎたい」と言っているのと同じだ。
なぜ「新しい」ビジネスでなければならないのか?
Webの世界だろうが、現実の世界だろうが、今までやったことのないビジネスを始めるには、相当の覚悟と勇気とエネルギーが必要だ。そして何より、成功率は極めて低い。
「脱サラしてラーメン屋を開業する(ラーメン作りは初めての経験)」
カッコいいよね。新しい人生の始まり。自分への挑戦。起業家精神。SNSでバズりそうな物語。
でも待てよ。
本当に心からラーメンを愛していないと、長続きしない。
そして、ラーメンを愛している人間なら、「ラーメン作りは初めての経験」なんて言うだろうか?趣味ですら作ったことがないなんて、ありえるか?
真実はこうだ:あなたは「ラーメン屋」という看板が欲しいだけで、ラーメンそのものには1ミリも興味がない。
それは、恋愛じゃなくて見合い結婚だ。しかも相手の顔も見ずに結婚しようとしている。
隣の芝生症候群:SNSが作り出した「自分には何もない」という呪い
なぜ、こんなにも多くの人が「新しいこと」に惹かれるのか?
答えは簡単だ。SNSを見すぎているから。
Instagram を開けば、誰かがプログラミングで起業している。YouTube を開けば、誰かが不労所得で月100万円稼いでいる。TikTok を開けば、若者が動画で一夜にして有名になっている。
そして、あなたは思う。「自分には何もない…」
これは、広告業界が仕掛けた最大の罠だ。
「今のあなたではダメです。新しいあなたになれば、幸せになれます」
このメッセージは、商品を売るための巧妙な仕掛けに過ぎない。プログラミングスクール、英会話教室、オンラインサロン、情報商材――すべてが同じ構造だ。
「あなたには〇〇が足りない。だから、うちの商品を買えば解決します」
でも、真実はこうだ。
あなたには、何も足りていないものなんてない。
あなたはすでに、十分な武器を持っている。ただ、その武器を磨いていないだけだ。いや、武器を持っていることすら、気付いていないだけだ。
あなたが「呼吸するように出来ること」が、実は年収1000万円の価値を持つ理由
ここで、衝撃的な事実を伝えよう。
あなたにとっての「当たり前」は、他の誰かにとっての「魔法」だ。
例えば、私の知人にExcelの達人がいる。彼女は経理部で15年働いている。ピボットテーブル?関数?マクロ?朝飯前だ。
ある日、私が「このデータ、集計するのに3時間かかりそうだな…」と嘆いていたら、彼女が「貸して」と言って、3分で終わらせた。
私は驚愕した。「どうやったの?!」
彼女は笑った。「え?普通にピボットテーブル使っただけだよ。誰でもできるでしょ」
「誰でもできる」?
いや、できないから!私には魔法にしか見えなかったから!
そして、ここに本質がある。
彼女は15年かけて身に付けたExcelスキルを「誰でもできること」だと思っている。でも、世の中の99%の人は、彼女のスキルの10分の1も持っていない。
もし彼女が「Excel業務効率化コンサルタント」として独立したら?中小企業の社長たちが行列を作るだろう。時給5000円?いや、安すぎる。1万円でも喜んで払う企業はゴロゴロある。
あなたが「呼吸するように出来ること」には、あなたが思っている100倍の価値がある。
「経験の棚卸し」という名の、人生を変える3時間
さて、ここまで読んで、あなたは思っているはずだ。
「でも、自分には本当に何もないんだよ…」
いや、あるから。絶対にある。ただ、あなたがそれに気付いていないだけ。
だから、今からやってほしいことがある。
紙とペンを用意して、過去10年間であなたが身に付けたスキルを、すべて書き出してほしい。
「そんなのない」と思った?違う。あるんだよ。
- 人と話すのが得意?それはコミュニケーションスキルだ
- クレームを笑顔で処理できる?それは超高度な交渉術だ
- Excelで表が作れる?それはデータ処理能力だ
- 子育てと仕事を両立してる?それはタイムマネジメント能力だ
- 地元の美味しい店を知ってる?それは情報収集能力だ
すべてが、武器だ。
そして、ここからが重要なんだけど、書き出したら次にこう問いかけてほしい。
「この経験を、誰かに教えるとしたら、その人は何時間かかるだろう?」
例えば、あなたが10年間営業をやってきたなら、その経験を身に付けるのに10年×2000時間(年間労働時間)=20000時間かかっている。
20000時間。
もし時給1000円で換算したら、2000万円の価値だ。
あなたは、2000万円分の経験を「大したことない」と言っているのだ。
馬鹿げている。
「好きなこと」ではなく「得意なこと」で勝負する:情熱という幻想を捨てろ
ここで、多くの人が陥る罠について話そう。
「好きなことを仕事にしよう!」
この言葉、嫌いだ。
いや、間違ってはいない。でも、順番が違う。
多くの人は「好きなこと」を探して、それを仕事にしようとする。でも、それは罠だ。
なぜなら、「好きなこと」と「得意なこと」は、全く別物だから。
私はピアノが好きだ。でも、下手くそだ。10年練習しても、たぶんプロにはなれない。
一方、私は文章を書くのが得意だ。別に「好き」ってわけじゃない。でも、気付いたら10年以上書き続けていた。そして、それで飯が食えている。
情熱は、結果の後からついてくる。
あなたが得意なことで結果を出せば、自然と情熱が湧いてくる。人から感謝される。お金が入る。認められる。そうすると、もっとやりたくなる。
これが正しい順番だ。
「好きなこと」を探すのは、あとでいい。まずは「得意なこと」で結果を出せ。
「新しい挑戦」という名の逃避:あなたは本当に挑戦したいのか、それとも今から逃げたいだけか?
厳しいことを言う。
「新しいことに挑戦したい」と言う人の90%は、今の現実から逃げたいだけだ。
今の仕事がつまらない。今の人間関係が嫌だ。今の自分が嫌いだ。
だから、「新しい自分」になろうとする。
でも、それは逃避だ。
場所を変えても、あなた自身は変わらない。
ラーメン屋を開業しても、あなたの本質は変わらない。プログラミングを学んでも、あなたの本質は変わらない。
変わるのは、環境だけ。そして、新しい環境で、また同じ問題にぶつかる。
だったら、今いる場所で、今持っている武器を磨け。
逃げるな。掘れ。
あなたの足元に、金鉱脈は眠っている。わざわざ遠くに行く必要なんて、どこにもない。
「今すぐ会社を辞めるな」という、最も現実的なアドバイス
もし、あなたが本当に新しいことに挑戦したいなら、まず言っておく。
会社を辞めるな。
「え?挑戦するんだから、覚悟を決めて退路を断つべきでしょ?」
違う。それは、ただの自殺行為だ。
新しいビジネスが軌道に乗るまで、最低でも1〜2年かかる。その間、収入がゼロだったら?貯金が底をついたら?焦りが生まれる。焦ると、判断を誤る。判断を誤ると、失敗する。
リスクは、最小限に抑えろ。
今の仕事を続けながら、副業として始めればいい。土日だけでいい。1日1時間でいい。
そして、もし本当にそのビジネスに情熱があるなら、1日1時間でも続けられるはずだ。
逆に、1日1時間も続けられないなら、それは「情熱」じゃない。ただの「逃避願望」だ。
具体例:営業マンが「営業経験」をWebで活かす3つの方法
さて、ここまで抽象的な話が続いたから、具体例を出そう。
例えば、あなたが10年間営業をやってきたとする。「自分には何もない」と思っているかもしれない。
でも、実際には、こんなことができるはずだ。
方法1:営業ノウハウをコンテンツ化する
あなたが10年間で身に付けた「クロージングの極意」「初対面で信頼を得る方法」「断られたときの切り返し方」――これらすべてが、コンテンツになる。
ブログを書く。noteを書く。YouTubeで話す。
「でも、そんなの他の人も書いてるでしょ?」
いいや、あなたの経験は、あなただけのものだ。他の人とは違う。あなただけのエピソード、あなただけの失敗、あなただけの気付き――それが価値になる。
方法2:営業代行サービスを始める
「営業が苦手」な経営者は、山ほどいる。特に、エンジニア出身の社長、デザイナー出身の社長――彼らは、商品は作れるけど、売るのが苦手だ。
あなたが、彼らの代わりに営業してあげればいい。成果報酬でいい。売れた分の10%をもらう。リスクゼロで始められる。
方法3:営業スキルを別業界に転用する
例えば、あなたが不動産営業をやってきたなら、そのスキルは「婚活カウンセラー」にも使える。
「え?全然違うじゃん」
いや、同じだよ。不動産営業も婚活も、本質は「マッチング」だ。顧客のニーズを聞き出し、最適な提案をし、クロージングする。プロセスは全く同じ。
あなたの経験は、あなたが思っている以上に「転用可能」だ。
「気付き」という名の、最も安くて最も強力な武器
さて、ここまで長々と書いてきたが、最も大事なことを最後に伝える。
あなたに必要なのは、新しいスキルでも、新しい挑戦でもない。
あなたに必要なのは、ただ一つ。
「気付くこと」
それだけだ。
- 自分の経験の価値に、気付くこと
- 自分の「当たり前」が他人には「魔法」だと、気付くこと
- 遠くに金を探しに行く必要なんてなくて、足元に金鉱脈があると、気付くこと
この「気付き」には、何の努力も必要ない。お金もかからない。時間もかからない。
ただ、視点を変えるだけ。
それだけで、人生が変わる。
最後に:陶芸家の教え
昔、ある陶芸家が弟子に言った。
「良い壺を作りたければ、粘土を遠くから運んでくるな。足元の土を使え。その土は、お前が毎日踏みしめてきた土だ。だから、お前の手に最も馴染む」
あなたの経験も、同じだ。
遠くの土より、足元の土。
そこにこそ、最高傑作が眠っている。
あなたは気付いていないかもしれないが、あなたはすでに、素晴らしい経験を積んできている。
その経験を「大したことない」と捨てるのか?
それとも、その経験を磨いて、光り輝く作品に仕上げるのか?
選ぶのは、あなただ。
でも、もし私が賭けるとしたら、私は後者に全財産を賭ける。
なぜなら、あなたの経験には、あなたが思っている100倍の価値があるから。
さあ、今日から始めよう。
新しい挑戦じゃない。
あなた自身の、再発見だ。
P.S. この記事を読んで「自分には本当に何もない」と思ったあなたへ。
友達5人に聞いてみてほしい。
「俺の(私の)強みって何だと思う?」
その答えを聞いたとき、あなたは驚くだろう。
自分が「当たり前」だと思っていたことが、実は誰も持っていない武器だったことに。
騙されたと思って、やってみてほしい。
あなたの人生が、今日から変わる。
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