その鎮痛剤(のような薬)、あと何年飲み続けますか?
月曜の朝、目覚ましのアラームで飛び起きる。頭が重い。いつもの頭痛だ。
引き出しから鎮痛剤を取り出す。水で流し込む。30分後には楽になる。いつものルーティン。
でも、ふと思う。「この薬、何年飲んでるんだっけ?」
3年?5年?もしかしたら10年?
私たちは気づかないうちに、”治っていないのに、治ったふりをする商品”に、延々と月額課金し続けている。
これは鎮痛剤だけの話じゃない。ビジネスコンサル、自己啓発セミナー、ダイエットサプリ、生産性アプリ、メンタルヘルスケア…あらゆる市場が、同じ構造で回っている。
今日、あなたに伝えたいのは、この「終わらないサブスクリプション地獄」から抜け出す方法だ。
そして、もしあなたが何かを売る側の人間なら、「時間がかかる」「努力が必要」という”弱点”を、最強の武器に変える方法を知ってほしい。
私たちは「治らない方が儲かる」構造に囚われている
衝撃的な事実を、まず受け止めてほしい。
対症療法ビジネスの本質は、「顧客が治らない方が儲かる」という構造的な利益相反だ。
製薬会社を悪者にするつもりはない。彼らは株主に対して「継続的な収益成長」を約束しなければならない。となれば、論理的帰結として、「一度で治る薬」より「飲み続けなければならない薬」の方が、ビジネスモデルとして優れている。
これは医療だけの話じゃない。
あなたの会社の「売上が伸びない」という悩みに対して、マーケティングコンサルは「とりあえず広告予算を増やしましょう」と提案する。効果が出なければ「もっと広告を」と言う。そして半年後、あなたはまた別のコンサルを探している。
なぜか? 根本原因(あなたの商品力の問題、市場とのミスマッチ、組織体制の歪み)に誰も触れないからだ。
触れたら、コンサルの契約は1回で終わってしまう。だから、誰も本当のことを言わない。
江戸時代の日本人は、私たちより300年先を行っていた
ここで、驚くべき歴史的事実を紹介したい。
江戸時代の日本には、「かかりつけ医」に“健康な時だけ”お金を払う地域があった。
病気になったら、支払いはストップ。
つまり、医者にとっての収益モデルは「患者を病気にさせないこと」だった。医者は患者の生活習慣を観察し、食事を指導し、季節の変わり目には予防のための養生法を教えた。
これこそが、究極の原因療法ビジネスモデルだ。
それなのに、現代の私たちは何をしているか?
「病気になってから」病院に行き、「症状を抑える」薬をもらい、「また具合が悪くなったら」また行く。
私たちは300年前の日本人より、退化している。
「今すぐ、楽して、短期間に」という呪いを解く
なぜ、こんなことになったのか?
答えは簡単だ。私たちが「今すぐ、楽して、短期間に」という魔法を信じ続けているからだ。
頭痛がする。今すぐ治したい。だから鎮痛剤。
売上が落ちた。今すぐ回復したい。だから広告。
太った。今すぐ痩せたい。だから「飲むだけで痩せる」サプリ。
この心理を、マーケティング業界は100年以上かけて研究し尽くしている。人間の「痛みから逃れたい」という本能を、徹底的に利用する技術を磨き上げてきた。
一方で、原因療法はどう語られてきたか?
「時間がかかります」
「努力が必要です」
「すぐには結果が出ません」
こんなネガティブな正直さで、誰が振り向くだろうか?
でも、本当にそうだろうか?
ここで、あなたに問いたい。
あなたは本当に「楽な解決策」を求めているのだろうか?
それとも、心の奥底では、「納得できる答え」と「変化への希望」を求めているのではないか?
スターバックスは、わざと注文を複雑にした。
「トールサイズ、カフェラテ、エクストラホット、ソイミルク、ノンホイップで」
こんな面倒くさい注文をさせる店が、なぜ世界中で愛されているのか?
答えは、人間は「努力した対象」に愛着を持つからだ。
あなたがカスタマイズした一杯は、コンビニで買う缶コーヒーとは違う。それは「あなたが選んだ」一杯だ。
「時間がかかる」は、弱点ではなく、最強の差別化ポイントだ
ここからが、本題だ。
もし、あなたが何らかの「原因療法」的なもの(本質的な解決策、時間のかかる変化、根本からの改善)を提供しているなら、「時間がかかる」という事実を隠してはいけない。
むしろ、それを全面に押し出せ。
なぜなら、それこそが、あなたの商品を“買い換え続ける必要のない、最後の選択肢”として位置づける、唯一の方法だからだ。
登山ガイドの比喩
対症療法ビジネスは「山の麓で疲れた足をマッサージする店」だ。
あなたが提供しているのは「この山に登れば、二度と足の痛みに悩まされない強い体が手に入る。一緒に登ろう」という登山ガイドだ。
登山には時間がかかる。途中で息が切れる。心が折れそうになる。
でも、7合目あたりで「あれ、もう息が切れない」と気づく瞬間がある。
そして頂上に立った時、もう麓のマッサージ店には戻らないと確信する。
これを売れ。
Before→Afterではなく、Before→During→Afterを売れ
多くの原因療法ビジネスが失敗する理由は、ここにある。
彼らは「変化した後の姿」しか見せない。
ダイエットの広告を思い出してほしい。並んでいるのは「3ヶ月で-20kg!」というビフォーアフター写真だけだ。
でも、顧客が本当に知りたいのは、そこじゃない。
顧客が知りたいのは、「その3ヶ月間、私は毎日何をするのか?」「どんな気持ちになるのか?」「辛い瞬間は?」「嬉しい瞬間は?」という、During(変化の最中)の具体的な物語だ。
例えば、こう語れ
「1週目、朝のコーヒーを白湯に変える。最初は物足りない。正直、イライラする。でも5日目の朝、ふと気づく。『あれ、舌が変わってる』と。白湯の微かな甘みを感じている自分がいる。これが、変化の第一歩だ。
2週目、夜の炭水化物を減らす。最初の3日間は地獄だ。22時頃、お腹が空いて眠れない。でも4日目、不思議なことに空腹感が消える。体が『食べない』というモードに切り替わったのがわかる。
3週目、昼食後の眠気が消えた。これには自分でも驚いた。今まで当たり前だと思っていた『昼の睡魔』が、実は食事由来だったことに気づく。
そして4週目…」
これが、During(変化の最中)を語るということだ。
読んでいるだけで、追体験ができる。自分もその旅に出たくなる。
孤独が、原因療法の最大の敵だ
もう一つ、重要なことを伝えたい。
原因療法で人々が挫折する最大の理由は、「効果が出ない」からではない。
「孤独」だからだ。
対症療法は孤独じゃない。コンビニで薬を買う。飲む。30分で楽になる。完結する。
でも原因療法は、長い旅だ。その旅の途中で、誰にも理解されない瞬間が来る。
「なんでそんな面倒なことしてるの? これ飲めばすぐ治るのに」
周囲の無理解。自分の中の「本当にこれで合ってるのか?」という不安。
だから、コミュニティが必要だ。
同じ山を登っている仲間。先に頂上に着いた人。まだ3合目で苦しんでいる人。
みんなで「今、どのあたり?」「昨日、こんなことがあった」と語り合える場所。
失敗談を、積極的にシェアする文化
そして、ここが肝心なのだが、そのコミュニティでは「失敗談」を積極的にシェアする文化が必要だ。
「今週、我慢できなくてラーメン食べちゃった」
「3日間サボった」
「もうやめたいと思った」
こういう話が、むしろ歓迎される場所。
なぜなら、完璧主義こそが、人々を原因療法から遠ざける最大の呪いだからだ。
「完璧にやらなきゃ」と思った瞬間、人は1回の失敗で全てを放り出す。
でも、「失敗しながらでも続けていいんだ」と知った瞬間、人は何度でも立ち上がれる。
あなたは、対症療法ループにハマっていないか?
ここで、自分自身に問いかけてほしい。
あなたが今、「繰り返し買っているもの」は何だろう?
- 毎月同じサプリメント?
- 毎週同じマッサージ?
- 毎年同じダイエット本?
- 毎回同じ「売上を上げる」セミナー?
そして、その”繰り返し”は、何年続いているだろうか?
もし3年以上続いているなら、それは「治っていない」証拠だ。
あなたは治療を買っているのではない。「治ったふり」を買い続けている。
チェックリスト
□ 同じ症状で、年に3回以上同じ薬を買っている
□ 「根本的に治したい」と思いながら、3年以上経っている
□ 効果が切れるのが怖くて、常にストックを切らさない
□ 「もっと強いやつ」「新しいバージョン」を探し続けている
□ 使うのをやめると、すぐに元に戻る
3つ以上当てはまったら、あなたは対症療法ループの中にいる。
もし、あなたが「売る側」なら
ここまで読んで、もしあなたが何らかの商品やサービスを提供する側の人間なら、こう思ったかもしれない。
「でも、原因療法なんて、売れないじゃないか」
その思い込みこそが、最大のチャンスを見逃させている。
実は、説明が長いほど成約率が上がる稀有なカテゴリー
対症療法は、説明が短いほど売れる。「飲むだけで痩せる」「塗るだけで消える」。シンプルで、即効性があって、わかりやすい。
でも原因療法は、説明が長いほど成約率が上がる。
なぜか?
人は納得するほど、覚悟が決まるからだ。
あなたが「この体質改善プログラムには6ヶ月かかります。最初の1ヶ月は辛いです。でも2ヶ月目から変化を感じ始めます。そして半年後、あなたは…」と詳細に語れば語るほど、聞いている人は「本気でやろう」という気持ちになる。
中途半端な期待を持った客は、すぐに離脱する。でも、本気で覚悟を決めた客は、最後までついてくる。
どちらが、あなたのビジネスにとって価値があるだろうか?
顧客生涯価値(LTV)の逆説
対症療法ビジネスの顧客は、「治らない限り」お金を払い続ける。一見、LTVが高そうに見える。
でも実際は、常に「もっと良い商品」「もっと効く方法」を探している。離脱率が高い。
一方、原因療法で完全に変わった顧客は、伝道師になる。
彼らは二度とあなたの商品を買わないかもしれない。でも、彼らは10人に語る。20人に語る。SNSで発信する。
「私の人生を変えたのは、この人だった」と。
さて、どちらが長期的に強いビジネスだろうか?
30万円を今払うか、5千円を60ヶ月払い続けるか
最後に、あなたに質問したい。
目の前に2つの選択肢がある。
A: 今、30万円を払って、6ヶ月後には完全に治る。その後の支払いはゼロ。
B: 月5千円を払い続ける。効果は毎月感じるが、やめると元に戻る。
あなたは、どちらを選ぶだろうか?
多くの人は、Bを選ぶ。「今30万は出せない」と。
でも、よく考えてほしい。
Bを選んだ場合、60ヶ月(5年)で30万円になる。そして5年後も、あなたは払い続けている。
つまり、Bを選んだ人は、結局「30万円以上」を払うことになる。しかも、治っていない。
これが、対症療法の罠だ。
「今は楽だが、永遠に終わらない」選択肢を選ばせるように、全てが設計されている。
あなたは、今日から変われる
ここまで読んだあなたに、最後に伝えたい。
あなたが今日、「とりあえず」買おうとしているものを、一度立ち止まって見つめ直してほしい。
それは本当に、あなたを「治す」ものだろうか?
それとも、「治ったふり」をさせる、次の月額課金だろうか?
もし後者なら、勇気を出して、こう問いかけてほしい。
「この問題を、根本から解決するには、何が必要ですか?」
そして、その答えが「半年かかります」「毎日の習慣を変える必要があります」というものだったとしても、逃げないでほしい。
なぜなら、その「半年」は、あなたがこれから生きる「残り全ての人生」と比べれば、ほんの一瞬だからだ。
そして、売る側のあなたへ
もし、あなたが何かを提供する側の人間なら、今日から「時間がかかる」を恥じるのをやめてほしい。
それは弱点じゃない。
それは、あなたの誠実さの証明だ。
「すぐに治ります」と嘘をつくのは簡単だ。でも、「半年かかります。でも、あなたの人生が変わります」と正直に語るには、勇気がいる。
その勇気を持った人だけが、本当に顧客の人生を変えられる。
そして、その顧客は、あなたを一生忘れない。
私たちは、終わらない月額課金から、卒業できる
最後に、冒頭の問いに戻ろう。
「その鎮痛剤、あと何年飲み続けますか?」
あなたの答えは、何だろうか?
「あと3年」だろうか?「あと10年」だろうか?
それとも、「今日で、終わりにする」だろうか?
私たちは、終わらない月額課金から、卒業できる。
対症療法という名の「安心の麻薬」から、抜け出せる。
ただし、それには覚悟がいる。
半年の旅に出る覚悟。途中で挫けそうになる自分を許す覚悟。そして、頂上に立った時、二度と山を下りない覚悟。
あなたは、その覚悟を持てるだろうか?
もし持てるなら、今日が、その旅の始まりだ。
もし持てないなら、それでもいい。また引き出しから鎮痛剤を取り出して、いつものルーティンに戻ればいい。
ただ、一つだけ約束してほしい。
次に薬を飲む時、この記事のことを、ほんの少しだけ思い出してほしい。
「私は今、何を買っているのだろう?」と。
その問いを持ち続ける限り、あなたにはまだ、選択肢がある。
最後の最後に、小ネタを一つ。
あるIT企業が、社内のコーヒーマシンを撤去した。
社員は猛反発した。「コーヒーがなければ仕事にならない!」
でも経営陣は言った。「君たちは、カフェインに仕事をさせられているだけだ。本当の集中力を取り戻そう」
最初の2週間は地獄だった。生産性は落ち、不満が渦巻いた。
でも1ヶ月後、何かが変わった。
社員たちは「カフェインなしでも集中できる自分」を発見した。そして気づいた。
「俺たち、10年間、コーヒーに支配されてたんだな」と。
その会社は、今も成長を続けている。コーヒーマシンは、まだ戻ってきていない。
あなたの人生の中の「コーヒーマシン」は、何だろうか?
それを撤去する勇気を、あなたは持っているだろうか?
今日、ここから、全てが始まる。
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