PASONAの法則を学んだ。実践した。でも、何も起きなかった。
Problem(問題)を書いた。Agitation(煽り)を入れた。Solution(解決策)を提示した。Narrow down(絞り込み)もした。Action(行動喚起)で締めた。
完璧だった。構成は完璧だった。
なのに、誰の心も動かなかった。
あなたは思っただろう。「もしかして、私には才能がないのか?」
違う。
あなたは型を守りすぎたのだ。
型に殺された言葉たち
コピーライティングを学び始めた人が最初に出会うのが、PASONAやAIDMA、QUESTといった「型」だ。
そして多くの人が、この型を「埋めるべきフォーム」だと勘違いする。
「Pには問題提起を書く」「Aには不安を煽る文章を入れる」「Sには商品の説明を書く」
まるで履歴書を書くように、項目を埋めていく。
その結果、何が生まれるか?
正しいが、死んでいる文章だ。
心拍数はゼロ。体温はない。目には光がない。でも、解剖学的には完璧な構造をしている。そんな文章。
あなたも見たことがあるはずだ。「こんなお悩みありませんか?」で始まり、「今すぐお申し込みください!」で終わる、あの機械的な文章を。
読んでいて、何も感じない。読み終えて、何も残らない。そして誰も、行動しない。
なぜか?
型は道具ではない。型は言語だ。
あなたは言語を「使う」のではなく、言語で「思考する」。型もまた同じだ。型を「埋める」のではなく、型で「感情の建築」をするのだ。
しかし、この真実に気づいている人は驚くほど少ない。
説得しようとした瞬間、人は逃げる
ここで、残酷な事実を伝えよう。
あなたが「説得しよう」と思った瞬間、読者の脳は防衛モードに入る。
これは脳科学的に証明されている。人間の脳には「説得検知器」のようなものが備わっていて、「誰かが自分の意思決定に介入しようとしている」と感じた瞬間、抵抗が始まる。
壁が立ち上がる。シャッターが下りる。そして、あなたの言葉はすべて遮断される。
PASONAのA(Agitation)で失敗する人の90%は、ここで間違える。
「このままでは手遅れになります!」「今すぐ行動しないと大変なことに!」「あなたは損をし続けています!」
これらの言葉は、確かに不安を煽る。しかし同時に、読者の防衛本能を最大限に刺激する。
結果、読者は逃げる。
ページを閉じる。スクロールを止める。そして二度と戻ってこない。
では、どうすればいいのか?
答えは逆説の中にある。
煽るな。予告しろ。
不安を増幅させるのではなく、「可能性の喪失」を静かに示唆するのだ。
例えば、こんなふうに。
❌「今すぐ行動しないと、一生このままです!」
⭕「去年の自分が、今の自分を見たら、何と言うだろう」
違いがわかるだろうか?
前者は「脅し」だ。読者に対して外部から圧力をかけている。
後者は「問いかけ」だ。読者の内側で、読者自身が答えを見つける。
そして人間は、他人に言われたことは拒絶するが、自分で気づいたことは信じる。
これが、型を「埋める」のと「使いこなす」の違いだ。
型の向こう側に何があるのか
PASONAを含むすべての型には、共通の目的がある。
それは「読者の意識の流れを設計すること」だ。
Problem(問題)は、読者の現在地を確認させる。Agitation(煽り)は、そこに留まることのリスクを認識させる。Solution(解決策)は、新しい可能性を提示する。Narrow down(絞り込み)は、「これは私のためのものだ」と感じさせる。Action(行動喚起)は、最初の一歩を具体化する。
しかし、本当に優れたコピーは、この流れをさらに超えていく。
読者の意識を「設計する」のではなく、読者の無意識に「侵入する」。
どういうことか?
読み終えても、終わらない文章
あなたには、こんな経験がないだろうか。
本を読み終えた。映画を見終えた。でも、頭の中で何かがループし続けている。
登場人物の台詞が、勝手に再生される。物語の場面が、ふとした瞬間に蘇る。そして気づくと、その世界観で現実を見ている。
これが、意識への侵入だ。
優れたコピーは、読み終えた後も読者の思考回路の中で生き続ける。
読者が仕事をしている時、読者が電車に乗っている時、読者がベッドに入る時、
ふと、あなたの言葉が蘇る。
「もう、戻れない」「去年の自分が見たら、何と言うだろう」「あなたの言葉は、誰の中で生き続けるだろう」
これらは単なる言葉ではない。読者の内的独白を乗っ取る装置だ。
そして、この装置を作るために必要なものは、型を「正しく埋めること」ではない。
必要なのは、読者の呼吸に同期することだ。
呼吸に同期する、とはどういうことか
人間の感情には、リズムがある。
興奮は上昇する。不安は波打つ。納得は静まる。
優れたコピーライターは、このリズムを読む。
そして、文章の構造をそのリズムに合わせる。
短い文は、緊張を生む。長い文は、読者を文章の世界に引き込む。一文だけの段落は、沈黙を作る。
そして沈黙こそが、最も強力な武器になる。
戦略的な沈黙
PASONAには含まれていないが、最も重要な要素がある。
それはS(Silence) = 沈黙だ。
すべてを語るな。すべてを説明するな。
情報の空白を、意図的に作れ。
なぜなら、人間の脳は「空白」に耐えられないからだ。
文章に空白があると、読者の脳は自動的にそれを埋めようとする。
そして、読者が自分で埋めた部分こそが、最も強く記憶に残る。
例えば、こんなふうに。
「彼女は、その言葉を聞いた瞬間、すべてを理解した」
何を理解したのか? 書いていない。しかし読者は、勝手に想像する。
そして読者が想像した「すべて」は、あなたが100語で説明するよりも、読者の心に深く刻まれる。
これが、沈黙の力だ。
型を破壊する実験
ここまで読んだあなたは、もう気づいているはずだ。
PASONAは「守るべきルール」ではなく、「遊ぶための楽器」だということに。
では、実際にどう「遊ぶ」のか?
実験1: 順序を逆転させる
通常のPASONA:Problem → Agitation → Solution
逆転PASONA:Solution → Problem → Agitation
つまり、先に「美しい未来」を見せる。
「想像してほしい。朝起きた時、もう不安がない世界を」
読者はその世界を想像する。
そして次に、現在の状態を見せる。
「でも今、あなたは毎朝、あの重い感覚と共に目を覚ます」
この瞬間、読者の中で自動的にギャップが生まれる。
あなたが「煽った」わけではない。読者が自分で気づいたのだ。
実験2: 複数の型を重ねる
PASONAは平面的な構造だ。しかし、優れたコピーは立体的な構造を持っている。
表層ではPASONAを走らせながら、深層では「神話の構造(英雄の旅)」を走らせる。
- Problem = 日常世界
- Agitation = 冒険への召命
- Solution = 試練と変容
- Action = 帰還と報酬
読者は表面的には「商品の説明」を読んでいると思っている。
しかし無意識では、自分が主人公の物語を体験している。
これが、型を超えた型の使い方だ。
実験3: メタファーで全てを包む
最も強力な技術は、コピー全体を1つの巨大なメタファーで包むことだ。
例えば、「暗闇の中で手を引く」というメタファー。
このメタファーを軸にすると:
- Problem = 「あなたは暗闇の中にいる」
- Agitation = 「そして、崖が近づいている」
- Solution = 「私の手を取れば、光の方向がわかる」
しかし、ここでさらに逆転させる。
最終的には「あなたの中に、既にコンパスがあった」と気づかせる。
読者は救われたのではなく、自分で道を見つけたと感じる。
これが、型を透明化させる技術だ。
あなたのコピー、死んでませんか?
ここで、残酷なチェックリストを提示しよう。
以下の項目に1つでも当てはまるなら、あなたのコピーは死んでいる。
- [ ] 読者が「説得されている」と感じる瞬間がある
- [ ] 形容詞が多い(美しい、素晴らしい、最高の、など)
- [ ] 「〜〜しましょう」と命令している
- [ ] 読み終えた後、何も頭に残らない
- [ ] 声に出して読むと、リズムが悪い
- [ ] 「今すぐ!」「限定!」「○○%OFF!」で煽っている
- [ ] 読者の「内的独白」が想像できない
どうだろう?
いくつ当てはまっただろうか?
もし3つ以上当てはまったなら、あなたは型に支配されている。
型を使っているのではなく、型に使われている。
しかし、安心してほしい。
これは才能の問題ではない。視点の問題だ。
視点を変える、たった1つの質問
すべてを変える質問がある。
コピーを書く前に、この質問を自分に投げかけてほしい。
「読者は、この文章を読み終えた後、誰に何を話すだろう?」
この質問が、すべてを変える。
なぜなら、人間は「読んだこと」の90%を忘れるが、「誰かに話したくなったこと」は絶対に忘れないから。
あなたのコピーは、シェアされるために存在するのではない。
読者の中で、再話されるために存在する。
再話される言葉の条件
読者が誰かに話したくなる言葉には、3つの条件がある。
条件1: 7文字以内でリピートできる
「もう、戻れない」「型は言語だ」「沈黙が、最強」
これらは短い。だから記憶に残る。
条件2: 逆説を含んでいる
「説得すると、逃げられる」「煽るほど、動かない」「完璧なほど、響かない」
逆説は、脳を刺激する。だから忘れられない。
条件3: 読者が「これ、私のことだ」と思える
抽象的な正論ではなく、具体的な体験。
「PASONAを学んで、実践して、でも何も起きなかった」
この一文で、何千人もの人が「私のことだ」と思う。
これが、言葉の磁力だ。
明日、あなたがすること
理論は十分だ。
明日、あなたは何をするべきか?
答えは、驚くほどシンプルだ。
今日書いたコピーから、形容詞を全て削除してみる。
それだけだ。
「美しい」を消せ。「素晴らしい」を消せ。「革新的な」を消せ。
そして、残ったものを見てほしい。
おそらく、文章は崩壊するだろう。
形容詞に依存していたことに気づくだろう。
いい。それでいい。
そこから、再構築すればいい。
今度は形容詞ではなく、事実と感覚で。
例えば:
❌「これは美しい体験です」
⭕「読み終えた瞬間、手が震えた」
前者は説明。後者は体験。
読者は説明を読みたいのではない。体験を追体験したいのだ。
次のステップ: 逆算設計
形容詞削除に慣れたら、次は「逆算設計」だ。
ゴールから書き始める。
「読者に最終的に何を思い出させたいか?」を先に決める。
そこから逆算して、Problem、Agitation、Solutionを配置する。
すると、型は「埋めるべきフォーム」ではなく、感情の建築設計図に変わる。
そして最終的には、型を意識しなくなる。
型があなたの一部になる。
呼吸のように、自然に使えるようになる。
あなたの言葉は、誰の中で生き続けるだろう
この記事を読み終えた後、あなたは何を思うだろう?
おそらく、こう思うはずだ。
「じゃあ、今まで私が書いてきたコピーは何だったんだ?」
それでいい。
その「もどかしさ」こそが、成長の始まりだ。
型を学んだ。型を実践した。でも何も起きなかった。
それは、あなたに才能がなかったからではない。
あなたは型を「道具」として使おうとした。
しかし型は、道具ではない。
型は、言語だ。
そして言語は、使うものではなく、思考するものだ。
だから今日から、型で「埋める」のをやめよう。
型で「建築する」のだ。
読者の感情を。読者の記憶を。読者の未来を。
そしていつか、あなたの言葉が、誰かの人生の転換点になる。
誰かが、あなたの言葉を読んだ日を「あの日」と呼ぶようになる。
それが、型を超えたコピーライティングだ。
さあ、もう戻れない。
あなたは、型の向こう側を見てしまった。
明日からのあなたのコピーは、もう以前のものとは違う。
読者の呼吸に同期し、沈黙を武器にし、言葉を読者の中に住まわせる。
あなたの指が、キーボードに触れる。
次に生まれる言葉は、もう「型通り」ではない。
それは、あなただけの言語だ。
さあ、遊んで書き始めよう。
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