ようこそ、マインドセット編の最終回へ。
ここまで読み進めたあなたは、すでに立派な「素質」を持っている。
第1回で「圧倒的な怠惰(やる気)」を手に入れ、第2回で「AIへの指示力(翻訳術)」を学んだ。
精神(マインド)と地図(設計図)は揃った。あとは「道具」を手にするだけだ。
だが、ここで過去の亡霊があなたを襲うかもしれない。
「でも、プログラミングって、やる前に『環境構築』しなきゃいけないんでしょ?」
「黒い画面(ターミナル)に謎のコマンドを打ち込んで、エラーが出て、何も始まらずに終わるんでしょ?」
安心してほしい。その「最初のボス」は、すでにGoogleが倒しておいてくれた。
GAS(Google Apps Script)の世界に、環境構築という概念は存在しない。あるのは「クリック3回」だけだ。
今回は、なぜGASこそが我々ズボラ人間に残された「最後の楽園」なのか、その圧倒的なメリットを解説する。これを読み終えた瞬間、あなたはブラウザを開きたくてたまらなくなるはずだ。
挫折の9割は「黒い画面」で起きている
あなたが過去にプログラミング(PythonやJavaなど)に挑戦し、敗れ去った理由を当ててみよう。
コードが難しかったからではない。コードを書く前の「準備」で力尽きたからだ。
「Hello World」を見るまでの遠すぎる道のり
一般的なプログラミング学習は、苦行から始まる。
- 言語のインストール(バージョンが合わずにエラー)
- エディタのインストール(設定項目が多すぎて絶望)
- パスを通す(「パス」って何? ここで帰宅)
- ライブラリの管理(依存関係の衝突で爆死)
ようやく準備が整い、黒い画面に Hello World と表示された頃には、あなたのHPは0になっている。
「俺はただ、面倒な作業を自動化したかっただけなのに、なんでパソコンの深部設定と戦っているんだ…?」
これは、カップラーメンを食べたいだけなのに、小麦を育てて製粉所を作るところから始めさせられるようなものだ。
GASは「カップにお湯を入れるだけ」
対して、GASはどうだ。
- Googleスプレッドシートを開く
- メニューの「拡張機能」をクリック
- 「Apps Script」をクリック
——以上だ。
嘘ではない。これだけで、Googleが誇るスーパーコンピュータの中に、あなた専用の開発環境が立ち上がる。
インストール不要、設定不要、ハイスペックPCも不要。
ネットに繋がるポンコツPCさえあれば、そこが世界最先端の開発現場になる。これが「クラウド」の力だ。
「スプレッドシート」という最強のユーザーインターフェース
GASを推す理由は、環境構築が不要だからだけではない。
「スプレッドシートがそのままアプリの画面になる」という点が、初心者にとって最強の武器だからだ。
「画面を作る」のが一番難しい
想像してほしい。あなたが「Python」で便利な計算ツールを作ったとする。
だが、それを動かすには毎回「黒い画面」を開かなければならない。使いにくい。
「ボタンとか入力フォームがある、スマホアプリみたいな画面にしたいな」と思った瞬間、地獄が始まる。HTML、CSS、JavaScriptフレームワーク……学ぶべきことが一気に100倍に増える。
多くの初心者はここで死ぬ。「裏側のロジック」は書けても、「表側の画面」を作るのが面倒すぎるのだ。
既にある「マス目」を使え
だが、我々にはスプレッドシートがある。
人類の99%が使い方を知っている、あの「マス目」だ。
- 入力フォームが欲しい? → セルに「ここに数字を入れて」と書けばいい。
- 出力画面が欲しい? → 隣のセルに結果を表示させればいい。
- 実行ボタンが欲しい? → 「図形描画」で四角形を置いて、スクリプトを割り当てればいい。
GASを使えば、面倒な画面設計は一切不要だ。
スプレッドシートという「完成された画面」を、プログラムの入出力装置として流用できる。これがどれほどズルくて、どれほど効率的か。
あなたは、UI(ユーザーインターフェース)を1秒も作ることなく、高機能なアプリ開発者になれるのだ。
Googleという「太っ腹なオカン」からの仕送り
さらに、GASにはGoogleならではの「寛大さ」がある。
通常、サーバーを動かしたり、定期的にプログラムを実行させたりするには金がかかる。AWSやAzureといったクラウドサービスを使えば、設定ミスで高額請求が来るリスク(クラウド破産)に怯える夜を過ごすことになる。
だがGoogleは違う。
GASは、個人のGoogleアカウントさえあれば無料だ。
- トリガー機能: 「毎朝9時に実行」といった定期実行も無料。
- メール送信: 1日100通まで無料(※一般アカウントの場合)。
- サーバー代: Google持ち。
これは、実家のオカンが「あんた、電気代とか食費は全部こっちで払っとくから、好きなことやりなさい」と言ってくれているようなものだ。
この恩恵を使わない手はない。Googleのサーバー資源を、あなたの個人的な怠惰のために使い倒そう。
準備はいいか? 次回からはいよいよ「実践」だ
これで、マインドセット編は終了だ。
もう一度確認しよう。
- 欲望: 「面倒くさい」という感情を原動力にする。
- 翻訳: AIへの指示は「具体的な箇条書き」にする。
- 道具: 恐怖の黒い画面は捨てて、スプレッドシートを開く。
もう、あなたを止めるものは何もない。
次回からは、ついに【エンドレス実践編】がスタートする。
最初に作るのは、あなたの怠惰な心を震わせる「リマインダーBot」だ。
だが普通のリマインダーではない。「明日やろうは馬鹿野郎」を地で行く、あなたをSlackやLINEで罵倒してくるBotを作ってみようと思う。
さあ、Googleアカウントにログインして待て。
あなたのブラウザは、まもなく「魔法の杖」に変わる。
(第3回 終了)
(マインドセット編・完)
【次回から実践編です】
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